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3Dプリンタで変わる、製品開発とデザイン 第7回

3Dプリンタで加速するオープンコミュニティのものづくり ~GrabCADの力~

2015年12月10日  執筆者:原田 逸郎

クラウドを介して真価を発揮する3Dプリンタ

デジタルデータからダイレクトに最終品を生み出すことができるストラタシスのFDM 3Dプリンタ。この技術の登場により、製造プロセスは大きな変革の時を迎えようとしています。これまで「FDMテクノロジーの進化 というテーマで「工業用パーツ」「コンシューマ向けプロダクト」「サプライチェーン」という3つの観点からその影響力をご紹介してきましたが、その動きはこれまでに無いカタチ、すなわち一企業の枠組みを超えた新たな形態の製造プロセスを生み出しています。その動きの賛否はともかく、一つの時代の流れとして、新たな価値を創出していることは間違いありません。
デジタルデータからダイレクトに物体を生成する3Dプリント技術は、クラウドというインターネット上で共有する技術を介すことで、これまでのものづくりでは不可能であった使い方が可能になるのです。

クラウドが持つ「共有」特性を外部のコミュニティで行う動き

クラウドの最も代表的な特性といえば「共有」という機能が挙げられるのではないでしょうか。例えば、クラウド製造では、開発中の3Dデータをクラウド上に保存することで、社内の遠隔地にいるスタッフと共有することができます。この「共有」機能によって、さまざまなアイデアや視点をプロダクト開発に反映することが可能になり、製品をよりよいものに進化させることができるのです。この「共有」という特性は一見すると当たり前のような使い方に思われますが、この製品データの共有という使い方を社内に留まらず、外部の不特定多数があつまるコミュニティによって行おうという動きが登場しているのです。

value293D CADコミュニティ、GrabCAD。
無料でダウンロード可能なデータ108万点以上アップロードされている。

このクラウドによるオンラインコミュニティは最近ではオープンコミュニティというような呼ばれ方もされますが、3DCADデータのコミュニティで世界最大の存在がGrabCADです。GrabCADは、250万人以上もの世界中のエンジニアとデザイナーが登録する世界最大のCADファイルのコミュニティで、そこで利用できる無料のCADファイルはなんと108万点以上。1日あたりのファイルのダウンロード数は5万点にも及び、さまざまな製品のCADデータが無料で利用できます。実は最近ではこの膨大なCADデータと250万人以上に上るエンジニアを抱えたGrabCADを、自社の製品開発に利用しようという動きが活発になってきているのです。(2015年11月時点)

100万人のエンジニアが集うGrabCADとの製品開発とは

GrabCADに参加するコミュニティの力を自社の製品開発に活かそうという動きは、実は今から遡ること4年前、2011年から継続的に実施されています。一般的にGrabCADではデザインチャレンジというスタイルで行われ、メーカーや企業が、改良したい製品やパーツの仕様と条件を公開し、応募された改良案の中から、入賞作品を決定するという仕組み。入賞特典は、デザインチャレンジによってさまざまですが、場合によっては入賞者のデザインやアイデアが製品に採用されることも少なくありません。


すでに始まっているコミュニティによる製品開発

ちなみにこのGrabCADを利用した最初のデザインチャレンジは、2011年5月に行われたAmarokレーシングという世界で最も軽い電動レーシングバイクのトリプルクランプのデザイン募集です。現在ではGrabCADに登録者するエンジニアも100万人を超える規模ですが、このAmarokの電動レーシングバイクのデザインチャレンジが行われたときGrabCADに登録するエンジニアは4000名ほどで、累計で122の改良案が集まりました。
下記はAmarokがトリプルクランプの応募に関して定めている条件ですが、内容を見ても分かる通り、かなりの専門性とスキルが求められます。


【トリプルクランプの募集要件】

  • 剛性と低重量が最重要。レーシングを目的としているため、表面上のどこかに、Amarokのブランドロゴである狼の足を入れなければならない
  • アルミニウム6061合金のCNC切削で仕上げられること
  • M6ピンチボルトで止められること
  • 一体成型
  • 腐食防止のアルマイト加工

GEのジェットエンジンノズルで56カ国、700以上の改良案が集まる

value29GEのGrabCAD Challenge。ジェットエンジンのブラケットの改良案を募集。

このGrabCADのデザインチャレンジが最も威力を発揮した顕著な事例が、ゼネラル・エレクトリック(略称、GE)のジェットエンジン用ブラケットの改良です。GEはあらゆる業界に進出する世界最大のコングロマリットですが、メインの事業の一つに航空機エンジンの製造開発があります。GrabCADで行われたデザインチャレンジでは、自社で開発するジェットエンジンのブラケットを、より軽量化し3Dプリンタで製造できるように改良するのが目的でした。


従来、ジェットエンジンのブラケットは複数の金属パーツを組み合わせて作られていましたが、金属用3Dプリンタの一体成形に切り替えることで、パーツそのものの性能を向上させ、尚且つ生産性を高めることが期待されます。結局このプロジェクトでは全世界56カ国から累計で700以上にも上る改良案の応募があり、大幅にブラケットとしての性能を向上させることに成功しました。例えば、最終選考に残ったブラケットを実際の3Dプリンタで作り検証を行った結果、従来品に比べて重量を84パーセントまで軽量化することに成功し、同時に剛性も向上させることに成功しているのです。航空機にとって、軽量化はエネルギー効率の上昇につながり、剛性の向上は耐久性につながります。

value29優勝となったインドネシアのエンジニアM Arie Kurniawan氏のデザイン。
従来品に比べて重量を84パーセント軽量化。

このチャレンジで2回の審査に見事パスし、賞金を手にしたのはインドネシアのサラティーガを拠点とするエンジニアM Arie Kurniawan氏です。このように、数多くの設計者・エンジニアを抱えるGEのような企業でも、世界中からアイデアを集めることによって、自社内の決まった枠組みからは生まれなかったような革新的なデザインが、まったく異なる国・分野・環境から生み出されることもあります。

まとめ

オープンコミュニティの製品開発のメリット

上にご紹介したGrabCADのコミュニティによる製品開発は、ほんの代表的な一例に過ぎません。既に2011年に開始された企業とGrabCADのデザインチャレンジは、今では累計で100以上のプロジェクトに及んでいます。
このデザインチャレンジの取り組む企業やプロダクトの種類はさまざま。あらゆるプロダクトの改良、性能向上に何千人ものエンジニアの力が活かされているのです。


こうしたオープンコミュニティが行う製品開発のメリットとはどのような点が挙げられるのでしょうか。
第一に、コミュニティには、さまざまなスキルや経験を持ち、自らの力を活かしたいと考えているメンバーが存在することで、その製品に最適なアイデアを持つ人材を集約することができます。「MAKERS」の著者クリス・アンダーソンは「MAKERS」のなかで、このオープンソースのコミュニティの力をローカルモーターズを例にとり、「隠れたエネルギー」の利用だと述べています。その「隠れたエネルギー」がコミュニティの力によって「隠れた供給(その分野でいまだ雇われていない人材)と隠れた需要(通常の手法で作るとコストがかかりすぎる製品)を結びつけている。」(クリス・アンダーソン (2012年) MAKERS P68)とも。
これによりある一定の部分では自社のみで製品開発を行うよりも、はるかに多くの、多様なアイデアを低コストで集められるということが可能になるのです。一言で言うならば、圧倒的な多様性から生み出されるアイデアの利用とも言うべきでしょうか。


しかし、その一方で、オープンコミュニティによる開発を機能させるためには、さまざまな条件が必要になります。より良いプロダクトを生み出すためには、単純にバーチャル上で募集さえすればいいというだけではありません。
次回は、このクラウドを使ったオープンコミュニティのものづくりを機能させる条件、さらには、バーチャルの枠組みを出て一歩進んだ展開を行うGEとローカルモーターズ、ストラタシスの取組をご紹介します。

株式会社アイ・メーカー 代表取締役 原田 逸郎

株式会社アイ・メーカー 代表取締役 原田 逸郎
明治大学公共政策大学院卒。広告代理店にて大手タイヤメーカー、自動車メーカーなどの総合広告、ブランド・コミュニケーション、マーケティングを行う。その後、専門商社にて測定器関連事業の製品企画・開発を経て、2013年に株式会社アイ・メーカーを設立。これからの時代のものづくりに影響を与える3Dプリントとデジタル技術の情報サイト「i-MAKER.news」を運営。

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