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世界の事例に学ぶ、3Dプリンタの今とこれから 第5回

治具づくりの内製化が生み出す、モノづくり現場の地殻変動

2015年6月29日  執筆者:前田 健二

ボルボトラックスの新たな取り組み

少し前にスウェーデンの自動車メーカー、ボルボのトラック製造部門のボルボトラックスが、エンジンの製造工程に3Dプリンタを導入し、製造時間とコストを大幅に削減したというニュースが報じられました。自動車の製造には治具と呼ばれる器具が大量に使われます。日本大百科全書は治具を「加工や組立ての際、部品や工具を案内し位置決めするとともに固定する補助具。英語では「jig」ということから「治具」という漢字があてられている」と説明していますが、治具とは部品等を製造する際に材料や資材を固定したり、切削機をガイドしたりするために使われる補助用器具のことです。また、製造のみならず出来上がった製品や部品を検査するためにも大量の治具が使われます。


これまでのモノづくりの現場では、治具は鉄、アルミ、樹脂、木材等を材料に、切削加工機等を使って作られてきました。前回説明させていただいたサブトラクティブ・マニュファクチャリング、材料を切ったり削ったりして形にするモノづくりです。ボルボトラックスも、これまでは主に金属を材料に切削加工機等を使って各種の治具を製造してきました。ところが、今回ストラタシスの3Dプリンタを導入し、専用樹脂による治具製造へ切り替えたところ、製造時間が36日から2日へ短縮されたのです。

ストラタシスの3Dプリンタで製造されたエンジン部品用治具

3Dプリンタは製造コストも大きく下げる

治具の製造時間が2日へと大きく短縮されたのに加え、ボルボトラックスは3Dプリンタの導入により治具製造コストも大きく削減しました。専用樹脂を材料に3Dプリンタで治具を製造することで金属を材料に治具を製造するコストの百分の一に抑えることが可能になったのです。


前回、エアバスが航空機の部品製造に3Dプリンタを活用していることをご紹介しましたが(→ ものづくり革命は航空宇宙の世界から)、モノづくりの現場で、特に治具の製造に3Dプリンタが使われるケースも増えてきています。治具は、部品それぞれに合わせて作られるものであり、部品一つに対していくつもの種類が作られます。検査用治具も含め、現場で使われる治具の数は正に数えきれません。そうした無数にある治具を3Dプリンタで作る、つまり治具の内製化を進めることでモノづくりの時間とコストが大きく削減出来ることがわかったのです。


ストラタシスの3Dプリンタで製造されたエンジン部品用治具

治具づくりの内製化が与える大きなインパクト

これまで、多くのメーカーでは治具の製造を専門の業者に依頼していました。「治具屋」と呼ばれる治具製造業者は自動車、医療機器、検査機器、住宅関連機器等々のそれぞれの業界に特化し、様々な治具の製造を行ってきました。治具の製造にはそれなりにコストも時間もかかる煩雑なプロセスであるという認識が一般的でした。ところが、上にご紹介したボルボトラックスのような大企業ではなく、中小企業においても治具の製造に3Dプリンタを導入するケースが最近増えてきています。


例えば、ある建設部品メーカーは部品の製造時に部品に傷がつかないようプラスチックの治具をベルトに取りつけ、連続使用して摩耗しては取り換えるという作業を行っていました。治具は部品の種類や大きさに合わせてそれぞれ作る必要があり、相当の種類の治具が必要で、治具の製造は外部の業者が行っていました。


ところが、社内の若手の社員が3DCADソフトで簡単な治具のファイルを作り、PLA樹脂を材料に3Dプリンタで作ってみたところ、外部の業者が作ったものと比較して遜色のない出来でした。実際にラインで使ってみても結果は良好で、耐用時間も外部の業者が作った治具よりも大幅に長くなりました。以後、同社では治具の製造は完全に内製に切り替え、ボルボトラックスと同様治具製造時間とコストの削減を実現しました。

精度のいらない治具は間違いなく内製化へ

また、別の住宅機器メーカーも、木製ウッドデッキの製造にプラスチック製の治具を使っており、治具の製造は業者に依頼していました。この会社もウッドデッキのタイプやサイズに合わせて治具を揃える必要があり、製造担当者が治具のデザインを手書きし、それを業者にファックスして作ってもらっていました。


ところが、ある社員が治具をパソコンでデザインし、ABS樹脂を材料に3Dプリンタで出力してみたところこれも出来が良く、使用に十分耐えるものでした。木材を組み合わせる時に一方の木材を支えるのが目的で、もともとそれ程高い精度が要求される治具ではなかったという事もあり、同社では治具製造はすべて3Dプリンタによる内製に切り替えました。「今まで一週間かかっていた治具作りが三時間で出来るようになった」とその会社の経営者は話しています。


このように、治具、特にそれほど高い精度が求められない治具の製造を3Dプリンタで内製化する機運が日本のあちこちで高まりつつあります。今はまだ火が付き始めたという段階ですが、あっという間に燎原の火の如く拡がる可能性が高いと筆者は考えます。治具づくりの内製化が進むことにより、治具製造業者にとって厳しい時代がやって来る事は間違いないでしょう。

木工治具の例(写真「木工工作ランド」様ご提供)

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前田 健二
1966年東京都生まれ。1990年大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立上げ、帰国後内航海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営・起業に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。製薬会社の再生、ベンチャー企業の経営支援等を経て、現在は3Dプリンタビジネスを含む新規事業立上コンサルティングを行っている。

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